1812年に発表されたグリム兄弟の『子どもと家庭のメルヒェン集』の第1版から、最終決定版の7版まで巻頭に掲載され続けた作品が、今回紹介する『かえるの王さま』です。
日本では『かえるの王さま』『かえるの王さま、あるいは鉄のハインリヒ』、『かえるの王子さま』などのタイトルで出版されています。
魔法で“かえる”にされてしまった王子が、姫のキスによって元の姿に戻る……、という話を思い浮かべる方も多いでしょうが、実際の話は全く違います。
オリジナルの話は一体どんなものだったのか、楽しみにしてくださいね。
グリム童話・かえるの王さまの登場人物と名前
かえるの王さまの登場人物を紹介します。
多くの娘をもつある国の王さま。かえるとの約束を守らない末の娘をいさめる。
姫
王さまの末の娘。非常に美しい。ある時、泉のそばで遊んでいると、金のまりを泉の中に落としてしまう。金のまりを拾ってくれるならなんでもしてあげる、とかえるに言ってしまう。
かえる
魔法でかえるの姿にかえられてたよその国に王子。姫の泣き声を聞きつけ、泉に落ちた金のまりを拾った。タイトルや作品の後半では「王さま」と表記されることも。
ハインリヒ
王子の忠実な臣下。王子がかえるの姿になったことに心臓が破裂しそうなほど胸を痛めたため、心臓を押さえるために3本の鉄の輪を胸に巻き付けている。
グリム童話・かえるの王さまのあらすじ内容
あるところに、たくさんの美しい娘を持つ王さまがいました。
その中でも評判の美しい末の姫は、暑い日には森の中にある泉のそばにいくのが好きでした。
退屈すると、金のまりを放り投げて遊ぶのですが、この日はそのまりが泉の中に落ちてしまいました。
姫が大声で泣き続けていると、泉の中からぬるぬるとしたかえるが出てきて話しかけてきました。
泉に金のまりを落としたことを姫が言うと、かえるは「あなたが私をお友達にして、いつも可愛がってくれて、食事の時にはあなたのそばに座らせてくれて、あなたのお皿から食べさせてくれて、夜はあなたのベッドで一緒に寝させてくれるなら」金のまりをとってくると言うのです。
姫は内心「かえるのくせになんてずうずうしい」と思いながら、その条件を飲んだふりをしました。
かえるが泉にもぐって金のまりをとってきて姫に渡すと、姫はそのままかえるを置き去りにしてさっさと城へ帰っていきました。
翌日、姫がみんなで食事をしていると、ぴちゃぴちゃと水音がして、声が聞こえてきました。
「王さまの下のお姫さま、昨日の約束を覚えているでしょう」
姫は気味が悪くなって、王さまに昨日の話をしたところ、王さまは「一度約束したことは守らないといけないよ」と言い、かえるを部屋に入れるように姫に告げました。
かえるは姫のそばに座り、姫のお皿から料理をわけてもらいながら食事を楽しみました。
そして、姫のベッドにも一緒に入れて欲しいと言いました。
姫はここでも拒否しましたが、王さまは「困った時に助けてもらったのだから」と言うのです。
仕方なく姫は自分の部屋にかえるを連れていきましたが、かえるが「ベッドにも一緒に入れなければ王さまに言いつける」と言ったのを聞き、大変腹をたてました。
そこで姫は「こうしたらゆっくり寝られるでしょうよ」と言って、かえるを力一杯壁に叩きつけました。
するとなんと、壁に叩きつけられてから床に転がり落ちた時、かえるは美しい王子の姿になっていました。
王子と姫は、王さまの思し召しで、王子の国で結婚することになりました。
グリム童話・カエルの王さまの最後の結末は?
王子と姫を迎えに、白馬の8頭だての馬車がきました。
王子の忠実な部下、ハインリヒも一緒です。
ハインリヒは王子がかえるの姿にされたことに胸を痛め、心臓が張り裂けそうになっていたため、胸に3本の鉄の輪を巻いていました。
馬車が走り出すと、バンっと大きな音が鳴り響きました。
王子が、馬車が壊れたのではないかと心配してハインリヒに尋ねると、ハインリヒは「王子がかえるから元の姿に戻られたので、もう輪は必要なくなったのです」と答えました。
ハインリヒの喜びで残りの2本の輪もバンッバンッと外れると、その音はまるで祝砲のように鳴り響きました。
グリム童話・かえるの王さまの意味・教訓、伝えたいことは?
姫もかえるも、自分に正直な言動をしているのが印象的ですね。
かえるは金のまりを拾っただけで、自分の欲望を全部みたそうとしていますし、姫はかえるに対して気持ち悪いという感情を隠しもしません。
かえるが食卓にいては食べ物が喉を通りませんし、部屋に連れて行けと言われたときも指先でつまむようにして掴んで、部屋のすみに置いておくだけ。
王子にもどったかえるは「泉の中から自分を救い出して、もとの姿に戻してくれるのは、この王さまの姫しかいなかった」と王さまに語りますが、実際に姫はかえるを助け出しだわけではなく、かえるが勝手に城まできただけです。
自分に正直に生きる、できない約束はしない、それらがこのお話から得られる教訓だと考えられるのですが、いかがでしょうか……?
グリム童話・かえるの王さまの原作・初版は?作者、国や時代についても解説
グリム兄弟による『子どもと家庭のメルヒェン集』にある『Der Froschkönig oder der eiserne Heinrich』が、今回紹介している『かえるの王さま』です。
『かえるの王さま』が童話集に収録されたのは1812年発行の第1版から。
そして最終版の第7版まで、童話集の巻頭を飾り続けました。
第1版から第7版までに『かえるの王さま』は大幅に加筆され、その量は最終的に第1版の1.5倍になりました。
取材した民間伝承をもとに編纂された第1版では王子はかえるに“変身“していたとされていましたが、その後“変身させられていた”に書き換えられ、そこに“魔女の魔法によって”と付け加えられたそうです。
かえるに対する印象や、「気持ち悪いかえるを壁に叩きつける」ことが悪とされていないことなど、当時の価値観が垣間見えて、面白いですね。
グリム童話・かえるの王さまにまつわる都市伝説や疑問について考察
登場人物たちがなんだかみんな言いたい放題。
とても不思議な話の『かえるの王さま』の話を考察します。
①グリム童話・かえるの王さまで、姫はかえるにキスをした?
『かえるの王さま』を読んだことはないけれど、なんとなく話は知っている、確かどこかの国の王子がかえるになっていて、姫のキスで人間に戻った……。
なんて思っていませんでしたか?
王子さまのキスで白雪姫が生き返ったり、いばら姫が100年の眠りから覚めたり、などの童話と混同されているせいなのでしょうか。
かえるになってしまった王子が姫のキスで人間にもどる、とロマンティックな話のように思われがちなのですが、実際の話では、姫がかえるを掴んで壁に叩きつけることで王子は人間にもどっています。
オリジナルの話では白雪姫は棺を運んでいた小人がつまづいた衝撃で毒林檎が口から飛び出して生き返っていますし、いばら姫も100年の眠りの呪いがとける100年後のその瞬間にたまたま王子が居合わせただけだとされています。
年月が経つにつれて、よりロマンティックな方へ修正されてしまうのは、人気作品ゆえなのでしょうね。
②グリム童話・かえるの王さまで、王さまは全て知っていた?
ここで言う王さまとは、姫の父のこと。
姫の言う通り、ヌメヌメとした小さなかえるが、金のまりをとってきただけで姫の友達になり、食事をともにした上に同じベッドで寝るだなんてずうずうしい話です。
しかし王さまは、「かわいらしいあなたの絹のベッドの中でゆっくり眠りたい」なんてことをみんなの前で言うかえるを諌めることもなく、気持ち悪くて泣く姫にかえるの言うことを聞くようにと言います。
そして、かえるが人間の姿に戻り、本当はよその国の王子だったと聞かされた王さまは、すぐに姫と王子の結婚を認めます。
姫が結婚のことをどう思っていたのか、不思議なことにこれについては全く触れられていません。
それまではかえるをどれほど気持ち悪く思っていたのか、ことあるごとに描写されていたのに、かえるが王子の姿に戻ってからは、全く姫の気持ちがわからないのです。
かえるを忌み嫌っていても、城に招き入れたり食卓を共にしたりと、ベッドに入れずに壁に叩きつけた件を除いては、姫はいつも父である王さまの言うことを聞いていました。
王さまはかえるがよその国の王子だと気づいていたのか、知っていたからこそかえるが姫に近づくことを後押ししたのか、原作にもはっきりとは書かれていません。
姫は王さまに逆らえずに結婚を承諾したのだとしても、かえるを壁に叩きつけるという激しい性格を知っている元かえるの王子ですから、姫にとっても悪い結婚ではなかったのかもしれませんね。
グリム童話・かえるの王さまのおすすめ本を紹介
ここで、おすすめの『かえるの王さま』の絵本を紹介します。
『かえるの王さま』
画像引用:amazon.co.jp
作:グリム
絵:ビネッテ・シュレーダー
訳:矢川澄子
出版社:岩波書店
発行日:1992年6月
値段:1900円+税
対象年齢:4、5歳から
『かえるの王さま』のおすすめポイント
かえるが王子の姿に変わる場面は、姫がそれを見て「あら王子さま!」と思えたのかどうか……。
独特の不思議な絵で『かえるの王さま』の少し不可解な世界観を広げながらも、リアルなかえるの絵で、姫が感じるかえるへの嫌悪感を見る側にも共有させてくれます。
グリム童話・かえるの王さまのまとめ
原作のグリム童話集で加筆修正され、版を重ねる中でも、一貫して巻頭に掲載され続けた『かえるの王さま』。
ドイツの民間伝承や民話を編纂したグリム童話集ですが、この『かえるの王さま』が語り継がれてまで後世に残したかったこととは何だったのでしょうか。
登場人物の誰もが独特で、強烈な個性を持っていながら、感情移入するのは難しいお話でしたね。
副題にある『あるいは鉄のハインリヒ』のハインリヒは、後半わずかに登場するだけで、大きなインパクトを残しました。
ハインリヒが胸に巻きつけた鉄の輪がはじけとぶほど喜んでいた一方で、かえるが人間の姿に戻って以降は一言の描写もない姫。
最初は「自分勝手で乱暴なお姫様」としか捉えなくても、大人になるにつれて、もしくは何度か読んでみることで、姫に対して別の感情を抱くかもしれません。
ぜひ一度、じっくりと読んでみてほしい作品です。
コメント