グリム童話は数がたくさんあるので意外に知られていない物語もあります。
『土まんじゅう』というちょっと変わったタイトルのグリム童話があるのはご存じですか。
土まんじゅうとは土を盛り上げて作ったお墓のことをいいます。
そう聞くとなんだか怖い話のような気がしてしまいますね。
はたして『土まんじゅう』とはどんな物語なのでしょう。
登場人物やあらすじはもちろん、物語のできた時代背景なども盛り込みながらご紹介していきます。
グリム童話・土まんじゅうの登場人物と名前
土まんじゅうに出てくる登場人物には名前は出てきません。
貧乏な農夫:貧しさのあまり金持ちの農夫に小麦を分けてもらい代わりに金持ちの墓を見張る約束をした。
兵士の男:マントをかぶり顔にたくさんの傷跡がある。戦争に行っていた。
悪魔:死んだ金持ちの魂を取りに来たが兵士に邪魔をされる。
グリム童話・土まんじゅうのあらすじ内容
あるところに金持ちの農夫がいました。
農夫の畑の麦は生い茂り、果物は鈴なりで家畜小屋にはよく太った牛や毛艶の良い馬もいます。
そして家の中にはたくさんの金貨が入った箱までありました。
金持ちの農夫はそれらを見て満足そうにしていましたが、あるとき心の戸をたたかれ、こう呼びかけられました。
「お前はそれほど恵まれながら誰にも親切にしたことがない。貧しい人に分けたこともない。もっとほしがってばかりいたのではないか?」
農夫はすぐに答えました。
「私は強欲でひどい男でした。誰にも分け与えたり、良いことをしたこともありません。もっと自分が金持ちになることばかり考えていました」
そう言うと金持ちの農夫は怖くなり膝はがくがくと震え、立っていられないほどでした。
そこに隣のとても貧乏な農夫がやってきました。
その農夫はたくさんの子供がいるのに、食べさせるパンさえなかったので、無駄かもしれないと思いつつ金持ちの農夫に麦を6キロ貸してほしいと頼みに来たのです。
金持ちの農夫はそれを聞き、初めて慈悲の心が芽生えました。
そして貧乏な農夫に麦を12キロただであげるかわりに頼みをひとつ聞いてほしいと言います。
「わしが死んだらわしのお墓を三日三晩のあいだ、見張っておくれ」
貧乏な農夫は驚きましたが、その頼みを引き受けました。
その3日後、金持ちの農夫は本当に死んでしまったので、貧乏な農夫は約束通り、金持ちの農夫の墓の番をしていました。
すると3日目の晩に一人の男が現れます。
古いマントをまとい顔にたくさんの傷跡がある男は、かつて兵士でした。
貧乏な農夫は兵士に一緒に墓の番をしてくれないかと頼むと兵士は引き受けました。
真夜中になると見張りをしていたふたりの前に恐ろしい悪魔が現れます。
「その墓の中にいるやつは俺のものだから連れて行く。そこをどけろ!」
兵士は自分の長靴いっぱいの金貨をくれればどけてやる、と悪魔に告げます。
悪魔は金貨を持ってきて長靴に入れますが、兵士はあらかじめ長靴に穴をあけておいたので金貨はいつまでたってもいっぱいにはなりませんでした。
そのうち夜が明けて日の光が差し込むと、悪魔は悲鳴を上げて逃げて行ってしまいました。
グリム童話・土まんじゅうの最後の結末は?
兵士の機転で貧乏な農夫は墓を守ることができ、金持ちの農夫の哀れな魂は悪魔にとられずに済みました。
貧乏な農夫は悪魔の置いていった金貨を兵士と山分けにしようとします。
けれど兵士はこう言うのです。
「俺の分は貧乏な人に分けてほしい。俺はお前のうちでやっかいになるから、俺たちは残りの金で死ぬまで仲良くのんびり暮らそうじゃないか」と。
グリム童話・土まんじゅうの意味・教訓、伝えたいこととは?
はたしてこの物語は読者に何を伝えたいのでしょうか。
『土まんじゅう』つまり「お墓」をタイトルにしているということは、人の死を象徴していると考えられます。
人は生きている時の行いがいかに大切か、死の間際にそれに気づくことができないと大変なことになる、ということを説いているのです。
人は生きている時にあまりに欲ばかり持つと、死んでからその魂は天国どころか悪魔に連れ去られてしまう──つまり地獄に行く──そんなことになったら大変でしょう? という教訓が描かれているのですね。
金持ちの農夫が心の戸をたたかれた、というのは死の間際にやっと己の強欲さを振り返ったということでしょう。
そして最期に少しでも良いことをすることで、金持ちの農夫は貧乏な農夫と兵士に悪魔から守られ、死後の魂もまた救われたのです。
また悪魔に対してずる賢く見える兵士ですが、無償で人を助ける行いはかつて戦争で犯した罪の償いでもあり、悪というものに対しての抵抗でもあります。
グリム童話・土まんじゅうの原作・初版は?作者、国や時代についても解説
グリム童話で有名なグリム兄弟は19世紀前半にドイツで活躍した文学者です。
当時はフランスとの戦争等でドイツは大変翻弄されていました。
グリム兄弟はドイツ人がドイツ人としての自覚や誇りを持つためには、その民族的背景を描いた民話や昔話しを再確認することが大切と考えました。
また子供に物語を読み聞かせることの重要性を説きました。
そうして編纂されたのがグリム童話です。
『土まんじゅう』のもとになった民話や作者はわかっていません。
グリム兄弟が採集したたくさんの昔話しや民話の中の一つで、作者不詳の作品であると考えられます。
それは民衆のなかに根強く語り継がれ、引き継がれた物語の一つでもあるということです。
生きている時の行いがいかに大切か、ということを民衆はよくわかっていたのでしょう。
グリム童話・土まんじゅうにまつわる都市伝説や疑問について考察
グリム童話に関する疑問は数多くありますね。
『土まんじゅう』に関してはなにか語られていることがあるのでしょうか。
グリム童話・土まんじゅうはなぜこのような結末になったのか?
『土まんじゅう』という特殊なタイトルのグリム童話はそもそもメジャーなタイトルに比べると、あまり知られていません。
けれどタイトルの独特さに比べて内容は簡潔で、いかに人は欲ばかり持ってはいけないのかが子供にもわかりやすい物語です。
昔話しや民話というものはそもそも文学の原型であり、その歴史的背景や当時の人々の無意識の行動などが反映されているのです。
そう考えると『土まんじゅう』も当時の人々のさまざまな考えが映し出されていると言えるでしょう。
貧乏な農夫と兵士が悪魔に打ち勝つというラストはある意味では唐突にも感じられます。
けれど当時の人々の無意識の中に弱いものと強いものがひとつになり、さらに悪に打ち勝つというあこがれがあり、それが描かれた結末と言えるのかもしれません。
グリム童話・土まんじゅうのおすすめ絵本を紹介
それではここから『土まんじゅう』のお話が掲載されているおすすめの本をご紹介します。
『グリム童話全集 子どもと家庭のむかし話』
出典:西村書店公式サイト
絵:シャルロット・デマトーン
訳:橋本 孝 天沼 春樹
出版社:西村書店
発行日:2013年08月06日
値段: 3600円+税
対象年齢:小学生から中学生まで
『グリム童話全集 子どもと家庭のむかし話』のおすすめポイント
『星の銀貨』『赤ずきん』などの有名な作品をはじめとした210編のグリム童話が収められています。
オランダのイラストレーターシャルロット・デマトーンが挿絵を描いており、その美しいイラストとともに物語の世界に浸ることができます。
子供だけではなく大人にもふさわしいグリム童話の本です。
『グリムの昔話(1)野の道編』
出典:童話館公式サイト
絵:ウェルナー・クレムケ
訳: 矢崎 源九郎・植田 敏郎・乾 侑美子
出版社: 童話館
発売日:2000年10月
値段:2000円+税
対象年齢:8~9歳から
『グリムの昔話(1)野の道編』のおすすめポイント
「人の世の野の道から林の道、そして森の道を歩むように」と子供たちのそれぞれの成長に応じて編集されたグリム童話の本です。
野の道編、林の道編、森の道編で、それぞれ厳選されたグリム童話が収められています。
『土まんじゅう』は『土をまるくもったおはか』というタイトルで掲載されています。
グリム童話・土まんじゅうのまとめ
いかがでしたか?
今まで聞いたことのなかったグリム童話の『土まんじゅう』に少しでも興味がわいたなら大変嬉しいですね。
そして興味がわいたならぜひ手に取って実際の物語を読んでみてください。
有名なグリム童話とはまた違った味わいのあるお話の世界に、きっと引き込まれること間違いなしですよ。
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