今回紹介するのは、読み聞かせの絵本としても人気のある、有名な昔話『こぶとり爺さん』です。
右頬にこぶを持つおじいさんと、隣に住む左頬にこぶを持つおじいさんが登場し、1人は鬼にこぶを取ってもらったのに、もう1人はこぶをさらに増やされてしまったお話です。
日本の民話(昔話)で、古くは鎌倉時代前期に成立した『宇治拾遺物語』の中に登場しており、後世に伝わるにつれて少しずつ形が変わっていきました。
ここからは、日本に長く伝わるこの『こぶとり爺さん』のお話を詳しく解説します。
昔話・こぶとり爺さんの登場人物と名前
昔話・こぶとり爺さんの登場人物を紹介します。
右頬にできた大きなこぶを気にしていて、医者に見せるも処置できずに困っていた。踊りが好きで、陽気に踊る姿を鬼たちに気に入られる。翌日も踊りに来るようにと鬼に右頬のこぶを質にとられる。
左頬にこぶがあるおじいさん
右頬にこぶがあるおじいさんの隣に住んでいる。右頬のこぶを鬼が取ったと聞いて、自分のこぶも取ってもらおうと鬼の宴に参加する。踊りが下手だったために、鬼の不興を買い、右頬にもこぶを付けられる。
鬼たち
宴会や踊りが好きで、右頬にこぶがあるおじいさんの踊りを大層気にいる。
昔話・こぶとり爺さんのあらすじ内容
昔あるところに、右の頬に大きなこぶをつけたおじいさんがいました。
医者に見せてもなんともならないこのこぶを、邪魔だなと思いながらもそのままにしていました。
ある日、いつものように山に木を刈に行ったおじいさんでしたが、急に雲行きが怪しくなった直後に風雨が激しくなり、山を降りられなくなってしまいました。
おじいさんが大きな木の洞を見つけそこで雨宿りをしていると、なにやらあたりが騒がしくなってきました。
そっと覗いてみると、100人ほどのさまざまな形の鬼たちが、周囲を取り囲んでいました。
恐ろしくて震えていたおじいさんでしたが、鬼たちがそこで宴会を始め、踊りを披露し出すと、踊りが好きなおじいさんはうずうずとしてきました。
鬼のリーダーが「おい、他に踊れるやつはいないのか?」と言うので、おじいさんはついついその気になって鬼たちの前に出て、踊り始めてしまいました。
最初は驚いていた鬼たちでしたが、おじいさんの陽気で奇妙で上手な踊りにすっかり面白くなって、「これから毎度、宴会の時には踊ってくれ」と言うのです。
快諾したおじいさんでしたが、「そうは言ってももう2度と来ない気かもしれないぞ」と鬼の1人が言うと、鬼たちはまたおじいさんが来てくれるようにとおじいさんの右頬についていた大きなこぶをねじりとって、質草にしました。
おじいさんは木を刈ることも忘れるほど喜んで、急いで家に帰り、おばあさんに今日あったことを報告しました。
このおじいさんの隣の家には、左の頬に大きなこぶをつけたおじいさんが住んでいて、おじいさんの右頬からこぶが消えているのを見て驚きました。
「どうやったらあの大きなこぶが消えたんだ?」と聞くと、「鬼に取ってもらった」と言うではありませんか。
そこで左頬にこぶのあるおじいさんも、自分のこぶも鬼に取ってもらおうと山に登り、木の洞に隠れて鬼たちがくるのを待ちました。
すると、やはり鬼たちがやってきて、宴会を始めました。
しばらくすると鬼が「おーい!この前の爺さんはきているのか?」と言いました。
そこで左頬にこぶあるおじいさんは、怖いと思いながらも、踊るために前に出て行ったのですが……。
昔話・こぶとり爺さんの最後の結末は?
左頬にこぶがあるおじいさんは、踊りが得意ではありませんでした。
初めのうちはおじいさんが来ていたことを喜んでいた鬼たちでしたが、その踊りの下手さに鬼たちは興醒めしてしまいます。
鬼のリーダーが「なんだひどいな。もうこの前の質草は返してしまえ。もうこなくていい」と言ったので、質に取られていたこぶがおじいさん向かって飛んできました。
そのこぶはおじいさんの右頬にくっつき、おじいさんは両頬に大きなこぶをつけることになりました。
昔話・こぶとり爺さんから与えられる教訓とは?
右頬にこぶのあったおじいさんは、自分の得意な踊りを鬼たちに披露することで、こぶを取ってもらいました。
踊りの才能がなかった左頬にこぶのあるおじいさんは、こぶがなくなったおじいさんを見ると、羨ましさのあまり、自分ができないことをしようとしてしまいました。
『こぶとり爺さん』のお話で学べる重要なことは、人を羨んではいけない、と言うことでしょう。
原作になったであろう『宇治拾遺物語』の『鬼にこぶとらるゝ事』の最後も「ものうらやみはせまじきことなりとか」で締められています。
そしてもう1つは、こぶを邪魔なもの、嫌なものと思っていた2人のおじいさんとは違い、鬼たちはこぶを質草にできるほどの良いものだと捉えていたことがわかります。
右頬のおじいさんから取った時は「また来てくれるように」こぶを取り、左頬のおじいさんにつけたときは「もう2度と(こぶを取りに)踊りに来ないように」こぶを返したのです。
人によって、良いと思うものと悪いと思うものが違うことも知れるお話です。
昔話・こぶとり爺さんはどこのお話?由来や原作は?作者やモデルとなった人物はいる?
『こぶとり爺さん』は日本に伝わる民話であり、作者や由来ははっきりとしていません。
書物として最初に世に出たのは『宇治拾遺物語』の中の1話『鬼にこぶとらるゝ事』としてですが、この『宇治拾遺物語』自体、編著者はわかっていません。
『こぶとり爺さん』は、民話の常として、少しずつ内容に違いのあるものが多く伝わっています。
鬼の代わりに天狗が出てくるものや、隣のおじいさんには最初こぶがなかったのに鬼の宝目当てに踊りに行ってこぶをつけられたものなど、さまざまです。
『こぶとり爺さん』についていたこぶは、ただのこぶではなく、“耳下腺腫瘍”といわれるこぶだったのではないかとの説もあり、この病気は診断や治療には高い専門性がいるとされています。
そのため、昔の医療ではどうにもならなかったのは理解できますね。
現在多くの人が知る『こぶとり爺さん』では、なぜか最初に登場する右頬にこぶのあるおじいさんは優しく穏やかで陽気であり、その後に登場する左頬にこぶのあるおじいさんは意地悪であるとされています。
この変遷はさだかではありませんが、『こぶとり爺さん』は物語の類型では“隣の爺型民話”に分類されます。
『はなさかじいさん』や『舌切りすずめ』なども“隣の爺型民話”に含まれていますので、『こぶとり爺さん』もその中に多くある「隣のおじいさんは意地悪な人」という設定に変わっていったのかもしれません。
昔話・こぶとり爺さんのおすすめ本を紹介
有名な『こぶとり爺さん』は絵本も多く発行されています。
ここでは、特におすすめの人気絵本を2冊紹介します。
『こぶじいさま』
画像引用:amazon.co.jp
作:松居直
絵:赤羽末吉
出版社:福音館書店
発行日:1980年7月
値段:900円+税
対象年齢:4歳から
『こぶじいさま』のおすすめポイント
人気画家の赤羽末吉が描く鬼は迫力があり、一見怖そうではありますが、リズミカルな文章が鬼を明るく陽気な存在に描いています。
輪になって踊る時の歌をどれだけおもしろく読み聞かせるかで、子どもの楽しみ方も変わってきますよ。
『こぶとりじいさん』
画像引用:amazon.co.jp
作:市川宣子
絵:石井聖岳
出版社:小学館
発行日:2010年4月
値段:1,000円+税
対象年齢:幼児
『こぶとりじいさん』のおすすめポイント
天狗たちが宴会を始め、輪になり踊り出す場面は、天狗なのになぜか可愛らしく感じてしまいます。
石井聖岳が色鮮やかに描く鬼やおじいさんは、みんな生き生きとしていて、見ているだけで楽しくなります。
昔話・こぶとり爺さんのまとめ
有名な昔話や童話であるほど、語り継がれるにつれて脚色がされていくのが常ですが、『こぶとり爺さん』もその1つです。
もともとの話は、悪い人は出てこずに、ただただ物事がうまくいった人を羨んだ結果、悲しいことになってしまったものでした。
さまざまなパターンの『こぶとり爺さん』を読んでみて、ぜひお気に入りの1冊を見つけてくださいね。
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