『かちかち山』は日本全国でよく知られている有名な昔話です。
ハラハラするストーリーの面白さに加え、「カチカチ」という音も面白くて読み聞かせにぴったり。子どもに大人気の民話です。
子ども向けには残酷なシーンがカットされていることが多いのですが、実はとても怖いお話でもあるんですよ。
こちらの記事では、あらすじや原作、由来、教訓などに加え、おすすめの絵本についてもご紹介します。
【かちかち山の登場人物】昔話・かちかち山の登場人物と名前
はじめに、昔話『かちかち山』の登場人物についてご紹介します。
おばあさん:たぬきにだまされ、たぬきを縛っていた縄をといて殺されてしまいます。
たぬき:畑を荒らして捕まるものの、おばあさんをだまして逃げてしまいます。
うさぎ:かわいそうなおじいさんにかわって、たぬきを懲らしめます。
【かちかち山のストーリー】昔話・かちかち山のあらすじ内容
一般的に知られているかちかち山のあらすじをご紹介します。
かちかち山のあらすじ
むかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
畑を荒らす古だぬきに困り果てたおじいさんは、わなで捕まえて四つ足をしばり、うちの天井のはりにぶら下げました。
「たぬき汁をこしらえておいておくれ」
そうおばあさんに言って、またおじいさんは畑へ出かけました。
きねと臼でとんとん麦をつくおばあさんに、手伝うから縄をといてくれとたぬきが声をかけます。
その言葉を信じて縄をといてくれたおばあさんを、たぬきはきねで殴り殺してしまいました。
たぬき汁のかわりにばばあ汁をこしらえたたぬきは、おばあさんに化けておじいさんをだまし、汁を食べさせてしまいます。
「ばばあくったじじい、流しの下の骨を見ろ。」
おじいさんは驚き、おばあさんの骨を抱えておいおい泣きました。
やってきた白うさぎに、おじいさんはこれまでの話をして聞かせました。
気の毒に思ったうさぎは言いました。
「わたしがきっと仇をとってあげましょう。」
ある日、うさぎはたぬきの巣穴の前で、かち栗を食べ始めました。
栗を欲しがるたぬき。うさぎは栗をあげる代わりに、柴を向こうの山まで背負っていってほしいと言います。
たぬきの後ろを歩きながら、うさぎは火打石で「かちかち」と火を切りました。
「うさぎさん、かちかちいうのは何だろう。」
「この山はかちかち山だからさ。」
「ああ、そうか。」
火がたぬきの背中の柴に燃え移り、ぼうぼう燃えだしました。
「ぼうぼういうのは何だろう。」
「ぼうぼう山だからさ。」
たぬきの背中は燃え上がり、たぬきは泣きながら苦しみ転げまわりました。
あくる日、たぬきの見舞いにきたうさぎは、唐辛子みそを薬だと偽ってたぬきの背中にぬりたくりました。
「いたい、いたい!」
背中に火がついたように熱くなり、たぬきは穴の中を転げまわりました。
「ぴりぴりするのははじめだけ。じきに治るからがまんだよ。」
うさぎはそう嘘を言って帰っていきました。
昔話・かちかち山の最後の結末は?
それから数日後。うさぎはたぬきを海に誘いました。
うさぎは小さな木の舟に、たぬきは大きな泥の舟にのって沖へ出ます。
すると、泥が溶けて、たぬきの乗った舟が沈み始めました。
「ああ、沈む、沈む、助けてくれ」
あわてるたぬきをおもしろそうに眺めながらうさぎは言いました。
「おばあさんを殺して、おじいさんにばばあ汁を食わせた報いだ。」
たぬきはとうとう溺れ死に、うさぎは見事に仇をとりました。
【かちかち山の教訓】昔話・かちかち山から与えられる教訓とは?
有名な昔話『かちかち山』は、あまりの残酷さに驚かされる昔話でもあります。
徹底して描かれているのは、「悪いことをした者は罰せられる」という強いメッセージです。
たぬきが、自分が逃げるためにおばあさんをだまして縄をとかせたところまではまだ理解できます。
しかしその後、たぬきはおばあさんを不意打ちで殴り殺した上に、ばばあ汁を作っておじいさんに食べさせるという極悪非道な行いをするのです。
許す余地は全く残されていない状況のもと、うさぎは躊躇することなく仇を討ちます。
火責めや水没でたぬきを懲らしめますが、これは無意味にいたぶっているわけではありません。
古代・中世裁判の一形態「盟神深湯」の考えにちなんでおり、うさぎは裁判官の役目を果たしているのだそうです。
火打石の音やぼうぼう燃える音がしても危険に気づかず、あっさりうさぎにだまされる愚かなたぬき。
過去に学ぼうとせず、何度もだまされ続ける愚かさは悲惨な結末を招きました。
物事に常に注意を払い、身を守る賢さを身に着けることの大切さがよくわかりますね。
【かちかち山の由来】昔話・かちかち山はどこのお話?由来や原作は?作者やモデルとなった人物はいる?
昔話『かちかち山』の作者・モデルは不明ですが、室町時代末期には成立していたとみられています。
おばあさんを料理したたぬきを罰するという、カニバリズムへの憎悪を感じさせる異色の民話として知られています。
日本全国に『かちかち山』は存在していますが、地域によって細部が異なっているのが面白いところです。
うさぎと再会するたびにたぬきが責めても「それはよそのうさぎだろ」ととぼけるかけあいが入っていたり、東北地方ではたぬきではなく熊となっている物語もあります。
江戸時代には『兎の大手柄』とも呼ばれて親しまれました。
質素倹約を掲げた徳川吉宗が天下を収め、目上の者に害を成す者は罰せられるべきという勧善懲悪の話が好まれた時代。
五大昔話とされて人気だった『さるかに』『花咲爺』『かちかち山』『舌切り雀』『桃太郎』は、いずれも質素倹約、勧善懲悪の物語となっています。
でも、「懲らしめられたたぬきはかわいそう」だと思ってしまう人もいるのではないでしょうか?
江戸時代では、同情すべき点がないようにするために、たぬきが火傷をするシーンを除くなど、懲らしめる部分を一部削ったものもあったそうです。
「悪人を悪人として書くための改変」とは別に、現代の基準で残酷な描写を割愛したものが多々存在します。
おばあさんが殺されずにすむものや、たぬきは命をとられずに改心して許されるというものなど様々です。
唐辛子が伝わったのはポルトガル人の渡来以降のため、唐辛子みそのくだりは江戸時代に付け加えられたという説もあります。
しかし、唐辛子に限らず、からしやタデの汁など様々の説があるため、刺激物の種類が変わったという可能性もありますね。
文豪・太宰治は、『お伽草子』でかちかち山を新たな解釈で創作。16歳の美少女と37歳の不細工な男の物語として描きました。
この作品で太宰は、かちかち山の舞台となったのは山梨県の天上山と河口湖だと記しています。
昔話・かちかち山のおすすめ絵本を紹介
『かちかち山』のおもしろさを伝えてくれるすばらしい絵本を2冊ご紹介します。
『かちかちやま(日本傑作絵本シリーズ)』
出典:Amazon.co.jp
絵:赤羽 末吉
出版社:福音館書店
発行日:1988/4/20
価格:1,200円+税
対象年齢:4歳から
『かちかちやま(日本傑作絵本シリーズ)』のおすすめポイント
昔話絵本の第一人者である赤羽末吉による決定版。
美しい自然の中で、うさぎとたぬきが迫力あふれる攻防を繰り広げます。
残酷な描写を避けることなく原作に忠実に描かれているので、本物を求める方にお薦めですよ。
『かちかちやま 日本むかしばなし』
出典:Amazon.co.jp
出版社:金の星社
発行日:2010/5/1
価格:1,400円+税
対象年齢:幼児から
『かちかちやま 日本むかしばなし』のおすすめポイント
数々の童話絵本を生み出してきた人気画家・いもとようこの絵本。
うさぎとたぬきのやりとりをユーモアたっぷりに描いています。
かわいらしい絵が物語の残酷さを少し和らげてくれるので、子どもも読みやすいですよ。
【昔話・かちかち山のまとめ】江戸から愛された勧善懲悪の物語
『かちかち山』を詳しくご紹介してきましたが、いかがでしたか?
あまりの残酷な描写に驚いた方も多いのではないでしょうか。
でも、この民話が生まれたのは室町時代。
人気を博した江戸時代もまだ罪人への裁きが原始的だったことを思うと、ごく自然に生まれた勧善懲悪の物語なのかもしれません。
古い時代から語り継がれてきた民話ならではの味わいを、ぜひ楽しんでくださいね。
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