『天の羽衣』のお話を知っていますか?
天の羽衣といえば、「確か水浴びをしていた女性の羽衣を男が隠して……」「確かかぐや姫が昇天する時に着たもので……」と少し曖昧になっている人が多いのではないでしょうか。
今回紹介する昔話『天の羽衣』は、水浴びをしていた女性の羽衣を男が隠したものになります。
かぐや姫とは全く別のお話なんですよ。
しかし、羽衣の持ち主が天から降り立った女性ということもあって、ラストが織姫と彦星の七夕物語につながるパターンのお話も存在します。
「天帝の娘と牽牛」ではない七夕のお話ですので、こちらも合わせて紹介します。
原作というものははっきりと存在しない上に、派生するお話もかなり多いのが『天の羽衣』です。
あらすじでは一般的に知られているものを、取り上げています。
ぜひ楽しんでください。
昔話・天の羽衣の登場人物と名前
昔話・天の羽衣の登場人物を紹介します。
男
猟師。山で狩りをしていると水浴びをする女性たちを見つけ、その美しさに目を奪われる。松の木にかかっていた1枚の羽衣を手にする。
天女
湖に舞い降りた8人の天女。水浴びが終わると羽衣を纏い天に戻るが、男に羽衣を奪われた1人が取り残される。男の妻になる。
天帝
天女の父。天女が地上界で男と結婚し、その男が天界まで来たことが気に入らない。
昔話・天の羽衣のあらすじ内容
春の朝、猟師の男はこの日も山で狩りをしていました。
「今日もいい天気だなぁ。あれ?」
青く広がる空を見上げた男は、白い煙のようなたなびくものがふわふわとたなびき、湖に向かうのを見ました。
白鳥ではないかと考えた男は、湖に向かいました。
しかしそこにいたのは白鳥ではなく、美しい8人の女性たちでした。
あまりの美しさに息を呑む男がふと近くの松の木を見ると、その女性たちのものと思われる羽衣がかかっています。
「これは天女の羽衣に違いない。1枚いただいて我が家の家宝にしよう」
水浴びが終わった女性たちはそれぞれの羽衣を纏い、空に向かって上がって行きます。
そして、羽衣が見つからない1人の天女が残されました。
しくしくと泣き出した天女を可哀想に思った男は、懐から羽衣を取り出し、天女に差し出しました。
「まぁ。ありがとうございます」
そう言って微笑んだ天女を見た男は、彼女を空へ返すのが惜しくなり、羽衣を引っ込めて言いました。
「この羽衣は渡せません。あなたには私の妻になってもらいたい」
あまりのことに天女は何度も羽衣を返してほしいと言いましたが、男は頑として聞き入れません。
とうとう天女は男の妻となりました。
それから3年、天女は男を愛するようになり、2人の子どもにも恵まれました。
それでも天女は、自分がもといた天の場所に帰りたいと思い続けていたのです。
ある日、男が狩りで家を留守にしていると、天女は天井裏で黒い紙に包まれた何かを発見しました。
天女が包みを開けてみると、そこに入っていたのは3年前に男によって奪われた自分の羽衣でした。
「あぁ……。どうしましょう」
悩んだ天女ですが、羽衣を身に纏い、地上を飛び立ちます。
狩りから戻る途中の男は、空を舞う天女を見つけ、大声で呼び止めます。
「おーい!おーい!待ってくれ!」
天女は振り向くことなく、遠く、高く、飛んでいきました。
男は力の限り走り、天女を追いかけましたが、そのうち天女の姿は見えなくなってしまいました。
昔話・天の羽衣の最後の結末は?
男は天女の「わらじを千足作って竹の周りに埋めてほしい」という声を聞き、その通りにします。
すると竹は天へ届くほど伸び、男はそれをよじ登って天女が住む天界へと辿り着きました。
再会を喜んだ2人でしたが、天女の父である天帝は、天女が人間と結婚していることが不満でした。
天界においても天女の夫になりたい男は、天帝が出す難題を、天女の助けでクリアしていきます。
ある時、天帝は男に、猛暑の日に炎天下の“瓜畑の番”を3日3晩することを命じます。
天女から瓜には手を出してはいけないと聞いていた男でしたが、喉の渇きにがまんができなくなると、そこにあった瓜をかじりました。
すると瓜から水が止まることなく溢れ出し、男と天女を分け隔てるかのような巨大な川、「天の川」が出現しました。
2人はその後、天帝の許しがおりると1年に1度だけ会えるようになりました。
昔話・天の羽衣から与えられる教訓とは?
男と天女の始まりは、男の覗き行為と窃盗というとんでもないものでした。
1度は返してもらえると思った天女の羽衣でしたが、喜んだ顔が素敵だったからと言う理由で、男は懇願する天女の話も聞かずに妻としてしまいます。
子どもも生まれ、3年経ち、天女にも男に対して愛情は生まれたものの、羽衣を取り返してからの動きは早いものでした。
少し悩みはしましたが、最後に男の顔を見ることもなく、別れの言葉を残すでもなく、さっさと天界に帰ってしまいます。
上のあらすじとはまた別の言い伝えでは、男がだまって羽衣を盗み、天界へ帰れず困った天女を騙すように家で保護し、結婚。
その後何も知らなかった天女がある日家の中から、自分の羽衣を見つけます。
そして天女は何も言わずに羽衣を纏い、男がいない間にさっさと天界へ戻ります。
自分の羽衣を奪って天界に戻れないようにしておきながら、何食わぬ顔で結婚生活を送っていた男への絶望と怒り。
昔話・天の羽衣はどこのお話?由来や原作は?作者やモデルとなった人物はいる?
奈良時代に編纂された『古風土記』が天の羽衣にまつわるお話の最初のものだとされています。
「近江国の風土記」と「丹後国の風土記」に記されたものが、もっとも古い話だとされていますが、そもそもこの2つの話自体、天女以外の登場人物が全く違っています。
上のあらすじで紹介したものが近江国のものと近い形となっているのですが、丹後国のものは、天女は老夫婦の元で生活するお話になっています。
天女の酒造りの才で裕福になった老夫婦は、のちに天女を用無しとばかりに家から追い出します。
天女はのちに、京都宮津市にある「奈具神社」の祭神となりました。
天女と羽衣が出てくる伝説は日本国内、アイヌや沖縄でも伝わっているばかりか、世界各地にもその土地独自の内容で伝わっています。
昔話・天の羽衣のおすすめ本を紹介
ここでは「天の羽衣」のおすすめ絵本を紹介します。
『天人女房』
画像引用:amazon.co.jp
再話:稲田 和子
絵:太田 大八
出版社:童話館出版
発行日:2007年7月
値段:1,500円+税
対象年齢:7歳から
『天人女房』のおすすめポイント
昔話・天の羽衣のまとめ
天の羽衣について解説しました。
いかがでしたか。
世界各地で天から羽衣をまとった天女が降り立ち、羽衣をなくして地上に留まる話は伝わっています。
日本各地でもその土地特有の言い伝えが残り、絵本だけでも数多くのパターンがあるので、人によって知っている「天の羽衣の話」の内容は違うことが多いですね。
静岡県の三保松原に伝わる羽衣伝説では、羽衣を家に持ち帰ろうとした男を天女が呼び止め、羽衣を返すことで見事な天女の舞を見せ、天に帰るというとても平和的なお話になっています。
昔話としての『天の羽衣』はもちろん、民話や各地に伝わる伝承としても、さまざまな絵本を読み比べると面白いですよ。
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