グリム童話の『おいしいおかゆ』というおはなしはご存じですか。
小さな子に向いた短く楽しいおはなしなので、ストーリーテーリングに向いており、絵本だけでなく紙芝居にもなっています。
また石井桃子の名訳で子ども文庫の会から発行されたこともあります。
こちらでは『おいしいおかゆ』のあらすじを紹介しながら民話や昔話としての特徴、そしておはなしの持つ教訓など、さまざまな面から考察します。
読み終わったら『おいしいおかゆ』の物語にちょっと違った感想を持つかもしれませんよ。
グリム童話・おいしいおかゆの登場人物と名前
『おいしいおかゆ』の登場人物には名前は出てきません。
少女のお母さん:少女のお母さん
森で出会うおばあさん:少女が森で出会う不思議なおばあさん。少女におかゆの出てくる鍋をくれる。
町の人々:少女とお母さんが住む町の人々。
グリム童話・おいしいおかゆのあらすじ内容
むかし、あるところにとても心優しい少女がお母さんと二人で暮らしていました。
少女はとてもきれいな心の持ち主でしたが大変貧乏でした。
とうとう食べるものがなくなって少女は森に食べ物を探しにでかけました。
すると森の中で不思議なおばあさんに出会い、少女はおばあさんから小さな鍋をもらいます。
その鍋は「小さな鍋よ。おかゆを煮ておくれ」というとキビのおかゆを煮てくれます。
そして「小さな鍋よ。煮るのをやめておくれ」というと煮るのをやめる魔法の鍋でした。
この鍋のおかげでその日から少女とお母さんはいつでもおかゆが食べられ、おなかを空かせることもなくなりました。
ある日、少女が出かけていないときにお母さんはおなかが空いたので、小さな鍋に「小さな鍋よ。煮ておくれ」と言っておかゆを煮ておなかいっぱい食べました。
けれどお母さんは鍋におかゆを煮るのをやめさせる言葉を知らなかったのです。
そのため鍋はおかゆをどんどん煮続け、鍋からあふれとうとう家からもあふれ出しました。
そして隣の家も道路にも町中におかゆがいっぱいになって、町の人たちはとても困りましたがどうすることもできませんでした。
グリム童話・おいしいおかゆの最後の結末は?
おいしいおかゆの結末は、お母さんや町の人たちが困り果ててから、やっと少女が帰ってきます。
そして「小さな鍋よ。煮るのをやめておくれ」と鍋に声をかけ鍋はおかゆを煮るのをやめます。
けれどおかゆは町いっぱいにあふれていたので、町の人たちは自分の家に帰るのにおかゆをかたっぱしから食べなくてはいけませんでした。
グリム童話・おいしいおかゆの意味・教訓、伝えたいこととは?
グリム童話や、その他の童話にもあふれる食べ物やあふれるほどの宝物などの描写はよく出てきます。
当時のおはなしの時代背景を考えると、人々は食べる物にも困っていた貧しい時代であることがわかりますね。
またおかゆがお米ではなく、雑穀のキビであることにも注目して下さい。
まだ麦や米をろくに収穫できなかった時代は人々はキビなどの雑穀を食べて暮らしていたので、キビのおかゆでも昔の人にはたいへんごちそうだったということなんですね。
『おいしいおかゆ』は常に人々が飢えにおびえ、たとえ雑穀のおかゆでもごちそうだった時代の物語です。
そう考えるとこのおはなしの意味するところは、ひもじさへの恐怖やおなかいっぱい食べられることへのありがたさ。
そして鍋から食べ物があふれるというのは食べ物を無駄にしてはいけないという教訓がこもっているといえます。
グリム童話・おいしいおかゆの原作・初版は?作者、国や時代についても解説
『おいしいおかゆ』はグリム童話のひとつなので作者はグリム兄弟になります。
けれどその素となった話がいつごろ生まれて、誰が作ったかなどは不明なので、グリム兄弟がドイツ中で採集した民話や昔話の一つと言えそうです。
ヨーロッパはながく貧しく暗い時代が続いていました。
ドイツもフランスとの戦争などで民は相当の苦難を強いられました。
おそらく食べるものにも事欠く時代が長く続いたのでしょう。
『おいしいおかゆ』はそんな時代に、たくさんの食べ物があふれる鍋があったらどんなにいいだろう、という民衆の憧れやのぞみから生まれたお話と言えそうです。
グリム童話・おいしいおかゆにまつわる都市伝説や疑問について考察
残酷な物語が多いグリム童話の中でも、おかゆが鍋から溢れ出すというこのおはなしは、どちらかというと愉快な雰囲気があります。
けれど疑問がないわけではありません。
少女はなぜおかあさんに鍋を止めるための言葉は教えていなかったのでしょうか。
また少女に対しては心優しいなどの描写がありますが、お母さんに対しては特に何の描写もありませんね。
ひょっとするとお母さんは前から怠け者でそのせいで貧乏になり、少女は困っていたのかもしれません。
そして心優しいはずの少女が、実は怠け者のお母さんをこらしめたい、と考えていたとしたらどうでしょうか。
お母さんのせいでおかゆは町にあふれ、人々は大変迷惑をしたのです。
するとこの後、町の人たちはお母さんに対して冷たくなる可能性もありますよね。
けれど少女は鍋をとめたのだから町に人たちには大いに感謝されるでしょう。
そうすると少女はわざとお母さんに鍋を止める言葉を伝えていなかったのかもしれないのです。
そう考えるのは深読みでしょうか。
グリム童話・おいしいおかゆはなぜこのような結末になったのか?
食べ物がたくさんあることへの感謝を忘れてはいけない。
その食べ物をたくさん食べられるからといった無駄にしたりしてはいけない。
またいくら簡単に鍋がおかゆを作ってくれるからといって、それに甘えてばかりいてはいけない。
『おいしいおかゆ』の結末からはそんなさまざまな教訓や考察ができます。
そして単純におかゆがあふれだして皆が困る姿を愉快に楽しむことももちろんできます。
けれど物語の結末はそれ読む時代や状況によってもとらえ方は変わり、一概にはいえません。
なぜ、こんな結末になったかを自分なりに考察するのも楽しいですね。
グリム童話・おいしいおかゆのおすすめ絵本を紹介
それではここからは『おいしいおかゆ』が掲載されている本をご紹介します。
『(名作よんでよんで)グリムどうわ15話 3さい〜6さい親子で楽しむおはなし絵本 』
出典;honto公式サイト
出版社:学研
発行日:2010年10月
値段:1200円+税
対象年齢:幼児
『(名作よんでよんで)グリムどうわ15話 3さい〜6さい親子で楽しむおはなし絵本 』のおすすめポイント
『名作よんでよんで』のシリーズのグリム童話編になります。
「しらゆきひめ」や「おおかみと7匹の子ヤギ」など有名なグリム童話15編に親しむことができます。
幼児が読んでもわかりやすく、可愛らしいイラストも人気のある絵本で、読み聞かせにもぴったりです。
『おはなしのたからばこ・おいしいおかゆ』
出典:honto公式サイト
絵:尾崎 幸
出版社:フェリシモ
発行日:2010年01月
値段:1287円+税
対象年齢:小学生
『おはなしのたからばこ・おいしいおかゆ』のおすすめポイント
フェリシモ出版の「おはなしのたからばこ」シリーズの一冊です。
尾崎幸の銅版画が物語のメルヘンティックな雰囲気を高めていて繊細で美しい絵本なので、プレゼントにも向いています。
また人気児童作家の富安 陽子の新訳は、おかゆの描写が絶品で思わずおかゆが食べたくなること間違いなしですよ。
グリム童話・おいしいおかゆのまとめ
いかがでしたか。
グリム童話の『おいしいおかゆ』をさまざまな角度からご紹介しました。
一見、なんてことのない物語も読み込むと意外な面が見えてきたり、実はこんな意味があるのかもしれない、と考察するのは楽しいものですね。
昔話や民話がもとになっている物語は、その時代の人々の生活スタイルや考え方が深く反映されています。
『おいしいおかゆ』もそんな風にさまざまにとらえながら読んでみると、新たな発見があるかもしれませんよ。
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