日本全国でとてもよく知られている、有名な昔話『笠地蔵』。
貧しい中でも深い思いやりを忘れず暮らしていたおじいさんとおばあさんが最後に幸せになる、心温まる民話です。
二人に福をもたらすのが道端に立っている身近なお地蔵さまであることも、このお話を親しみ深いものにしています。
こちらの記事では、昔話の笠地蔵のあらすじとともに、由来や教訓についても掘り下げてご紹介します。
なじみ深い『笠地蔵』にはどんな秘密が隠されているのでしょうか?
新たな魅力を発見してくださいね。
【笠地蔵の登場人物】昔話・笠地蔵の登場人物と名前
まずは『笠地蔵』に出てくる登場人物をご紹介します。
おじいさん:
貧しい暮らしの中でも思いやりを忘れない心やさしい人。
雪まみれのお地蔵さまをかわいそうに思い、笠をかぶせてあげます。
おばあさん:
おじいさんと同じく心温かな人。
お地蔵さまに笠を差し上げたおじいさんの行いをよろこびます。
お地蔵さま:
村はずれに立って人々を見守っています。
笠をかぶせてくれたおじいさんに恩返しをします。
【笠地蔵のストーリー】昔話・笠地蔵のあらすじ内容
地域ごとに様々なバージョンがありますが、広く知られているあらすじをご紹介します。
笠地蔵のあらすじ
昔、とある雪深いところに、貧乏なおじいさんとおばあさんが住んでいました。
年越しの日。もちを買うお金もなかったため、おじいさんは日々こしらえてきた笠を町に売りに出かけます。
ところが残念なことに、笠はあまり売れませんでした。
吹雪の気配がしてきたため、おじいさんは売るのをあきらめて帰り始めます。
村はずれにはお地蔵さまが立っており、頭から足の先まで雪だらけになっていました。
その寒そうな姿を見てかわいそうに思ったおじいさんは、お地蔵さまの雪を払いながら、順々に売れ残りの笠をにかぶせてあげます。
笠が一つ足りなかったので、おじいさんは自分の笠を最後のお地蔵さまにかぶせてあげました。
「お地蔵さま、いい年を迎えてください」
そう言って、何も持たずにおじいさんは家に帰っていきました。
迎えにとんで出てきたおばあさんに、おじいさんはこれこれこういうわけでと、お地蔵さまに笠をかぶせた話をして聞かせました。
するとおばあさんは、
「まあ、それはいいことをしましたね」
とよろこびました。
夜になり、あっちこっちの家でもちをつくきねの音がし始めました。
「おじいさん、うちでもひとつおもちをつきましょう」
おばあさんの言葉におじいさんは驚いて聞きます。
「つく米もないのに、どうやってつくんだ」
「口でつくまねするんですよ」
二人は楽しく、声をかけあいながらもちをつき、こねるまねをしました。
「さあ、これでいい正月がきますよ」
語り合いながら、二人は布団に入って寝てしまいました。
その夜の真夜中。
おじいさんはなにやら声が聞こえた気がして、目を覚ましました。
耳をすますと、雪の降りしきる奥から、かすかに歌声が聞こえてきます。
「米もち ひとうす ペッタリコ」
声はますます大きくなり、荷をひく音もしています。
「笠をかぶせたおじいさんの家はどこだ」
ざあん、ざあん、どしーん。
大きな音に、おじいさんとおばあさんはふるえあがり、こわくて体も動きません。
しばらくしてから、おじいさんはあかりを灯して、おそるおそる戸を開けてみました。
昔話・笠地蔵の最後の結末は?
入口にはどでんと大きなものが置いてあります。はてとよく見て、おじいさんはたまげました。
なんとそこには米もち、あわもち、野菜に魚、そして小判までどっさりと山のように積んでありました。
遠くに、笠をかぶった六人のお地蔵さまが、雪の中背を向けて去ってゆくのが見えます。
おじいさんとおばあさんは、お地蔵さまからの贈り物のおかげで、良い新年を迎えることができました。
【笠地蔵の教訓】昔話・笠地蔵から与えられる教訓とは?
貧しい中でも思いやりを忘れず、信心深いおじいさんとおばあさんが幸せになるハッピーエンドの昔話・笠地蔵。
老夫婦は、ごく普通の意味で言われる「思いやり深さ」とは次元の違う温かな心を持っています。
貧乏な者にとっては貧乏のみじめさが痛切に迫る年越しの晩でさえも、二人は思いやりの心を持ち続けていたのです。
その心の清らかさには、誰もが胸打たれずにはいられません。
おじいさんは吹雪の中でにあっても、自分のかぶっていた笠までお地蔵さまに差し上げます。
物質的な欲望に負けることのない人の善意の美しさをさらりと教えてくれる名作民話です。
『花咲かじいさん』などのように善悪を対比せず、純粋に正しい行いをする者が救われるという内容は仏教思想に基づいています。
道徳を子どもに教えてあげるのに適した民話とも言えますね。
良い新年を迎え入れようと、おもちをつくふりをして楽しむ姿からは、貧しくても仲睦まじく思いやりをもって生きれば人生が豊かになることを教えられます。
【笠地蔵の由来】昔話・笠地蔵はどこのお話?由来や原作は?作者やモデルとなった人物はいる?
「笠地蔵」のお話はどこで生まれたのでしょう?
実は、「笠地蔵」は全国各地で語られ愛されてきた昔話で、地蔵信仰の無い沖縄地方以外の日本各地に広く分布しています。
伝承民話のため、原作者やモデルは存在していないようです。
「笠長者」「かさこ地蔵」など、別の題名で呼ばれている土地もあります。
東北など雪国で語られてきたもののほか、九州地方では雪ではなく雨に濡れた地蔵さまというものや、杉笠をかぶせてあげるものもあります。
地方によっての風土が色濃く出ているのも、民話ならではの面白さですね。
六地蔵だけではなく、一体のものから十二体まで様々あります。
本来の地蔵信仰で六道の衆生を救済するという考えから六体が一番多くなっているようです。
売れ残りの笠の数は5つが主流で、おじいさんが自分の笠を与えるものや、手ぬぐいなど手持ちのものを与えるものなど様々なお話があります。
新潟県では小千谷縮の反物をお地蔵さまに巻き付ける話があり、「ちぢみ地蔵」という地域もあるそうです。
このように地域ごとに異なる部分も数多いのですが、どれも大晦日の物語となっている点が共通しています。
お寺の縁起に結び付く伝説になっているところもあります。愛知県名古屋市の笠覆(りゅうふく)寺と笠地蔵の関係は代表的な一例です。
【笠地蔵の絵本】昔話・笠地蔵のおすすめ絵本を紹介
『笠地蔵』の素晴らしさを伝えてくれる、味わいある名作絵本をご紹介します。
ぜひ手に取ってみてくださいね。
『かさじぞう』
出典:Amazon.co.jp
絵:赤羽 末吉
出版社:福音館書店
発行日:1966/11/1
価格:900円+税
対象年齢:4歳から
『かさじぞう』のおすすめポイント
昔話絵本の挿画を手がける第一人者、赤羽末吉のデビュー作です。
中国大陸から日本へ戻ってきて、日本には湿気の美しさ、陰りの美しさがあると気づき、その日本のシメリを表現したかったといいます。
雪の中を何度も取材し、長い時間をかけて描かれた絵が味わい深い傑作絵本です。
『日本名作おはなし絵本 かさじぞう』
出典:Amazon.co.jp
絵:村上 勉
出版社:小学館
発行日:2009/10/30
価格:1,000円+税
対象年齢:幼児から
『日本名作おはなし絵本 かさじぞう』のおすすめポイント
温かみあふれる優しい画風で知られる村上勉による絵本です。
方言ではなく現代の標準語で書かれているので、子どもにとても理解しやすくなっています。
【笠地蔵のまとめ】相手を思いやる心を大切に
美しい昔話『笠地蔵』をご紹介してきましたが、いかがでしたか?
読むと幸せな気持ちになれると感じる方、きっとたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
おじいさんとおばあさんに贈り物を届けるために、雪の中を一生懸命に重い荷をひくお地蔵さまの姿に、子どもは心奪われることでしょう。
思いやりの大切さや、人間の「善意」の素晴らしさも、きっと伝わるにちがいありません。
コメント