絵本作家、宮西達也さんの代表作ともいえるティラノサウルスシリーズの第1作。
2010年に映画化もされた大人気絵本です。
強くて怖いティラノサウルスと無垢で素直なアンキロサウルスの赤ちゃんのちょっとちぐはぐな親子関係をえがいた、心があたたかくなる絵本をご紹介します。
『おまえうまそうだな』とはどんなお話【概要とあらすじを紹介】
肉食恐竜のティラノサウルスがアンキロサウルスの赤ちゃんに対して言った「おまえ、うまそうだな」から意外な展開に。
かわいらしいアンキロサウルスの赤ちゃんと、ティラノサウルスの表情の変化も楽しんで読んでみてください。
『おまえうまそうだな』の概要
出版社:ポプラ社
発売日:2003/3/1
価格+税:1,320円
『おまえうまそうだな』のあらすじ
むかしむかし おおむかしのある晴れた日。
ひろーいところで、一人ぼっちで生まれたアンキロサウルスの赤ちゃん。
そこへ大きな大きなティラノサウルスがやってきてよだれをたらしながら言いました。
「ひひひひ…おまえ、うまそうだな。」
それを聞いたアンキロサウルスは
「おとうさーん!」
ティラノサウルスの足にしがみついてきたのです。
「だってぼくのなまえ、ウマソウなんでしょ?なまえを知ってるんだからお父さんでしょ?」
ティラノサウルスは戸惑いつつも「ぼく、おとうさんみたいになりたい」というウマソウのために、父親として振舞いますが…。
『おまえうまそうだな』の内容要約
アンキロサウルスの赤ちゃんに父親と間違われ、親子のふりをするようになってしまうティラノサウルス。
ふたりはどんな毎日を送っていたのでしょうか。
もう少し詳しく見てみましょう。
要約1.ひとりぼっちの赤ちゃん
ある晴れた日。
誰もいない広い土地でうまれ、さみしくて泣いていたアンキロサウルスの赤ちゃんは、ティラノサウルスと出会います。
「ひひひひ、おまえ、うまそうだな。」
「おとうさん!」
ウマソウという名前を呼ばれたのだと思い、ティラノサウルスを父親と勘違いする赤ちゃん。
ティラノサウルスはびっくりして、思わず
「なんで、おれさまがおとうさんだってわかったんだ?」
と聞いてしまいます。
さみしかったよ、こわかったよと泣きついていたウマソウ。
父親に会えたと思って安心したのか、おなかがすいたと無邪気に草を食べ始めます。
ティラノサウルスはもうウマソウを食べることはできなくなっていました。
要約2.おとうさんみたいになりたい!
ウマソウはむしゃむしゃと草を食べながら、お父さんも一緒に食べようと誘います。
「お父さんはおなかがすいていないから、おまえが全部食べろ。」
ティラノサウルスがこう答えると…。
「ありがとう。ぼく、いっぱい食べて早くお父さんみたいになりたい。」
そこに、キランタイサウルスがやってきます。
ティラノサウルスと同じ、どうもうな肉食恐竜のキランタイサウルス。
おおきな口をぱかっとあけて、ウマソウに飛びかかりました。
とっさにウマソウをかばったティラノサウルスは、キランタイサウルスをしっぽで跳ね飛ばします。
何も気づかず草を夢中で食べ続けるウマソウ。
「おれみたいになりたい、か…。」
無邪気に言ったウマソウの言葉に、心がずきんと痛むティラノサウルスでした。
要約3.さようなら、ウマソウ
体当たりの練習やしっぽの使い方、ほえ方など、ティラノサウルスは生きるために必要な、いろいろなことをウマソウに教えます。
そのたびに、ウマソウはいいました。
「うわーすごい!ぼくもはやくおとうさんみたいになりたいなぁ…。」
何日も何日もたったある日、ついにティラノサウルスはウマソウに別れを告げます。
突然の別れに、イヤだイヤだとボロボロ涙を流すウマソウ。
そこで、ティラノサウルスは向こうの山まで競争しようとウマソウに言うのです。
もしお前が勝ったら、ずーっと一緒にいてやると。
ウマソウは涙を拭いて、一生懸命走りだします。
後ろを振り返ることなく、前に、前に進みます。
そして山のふもとに着いたとき、そこにはアンキロサウルスのお父さんとお母さんがいるのでした。
「さようなら、ウマソウ」
ティラノサウルスはそういって赤い実をひとつ食べました。
『おまえうまそうだな』の口コミ・評判

口コミ・評判:★★★★★
小学校1年生の恐竜好きな息子に買ってあげました。ワクワク、ドキドキしながら読んでいましたが、最後のお別れのシーンになると涙をこらえている様子。子供にも、心に残る一冊になったようです。

口コミ・評判:★★★★★
目のつりあがったティラノザウルスの表紙を見たときは「これは悪者だな」と思いましたが、いい意味で裏切られ、とても感動しました。子供が楽しめるのはもちろん、親の心にぐっとくる一冊。

口コミ・評判:★★★★★
娘が図書館で手に取り、一緒に読みました。そういえば恐竜の絵本は保育園でも読んでもらってたなと読み出してみたら…。図書館で思わず涙が出そうになりました。
早速購入し、娘は大喜び。今では寝る前のお気に入りです。
『おまえうまそうだな』の主題・テーマは?
アンキロサウルスの赤ちゃんの勘違いから始まったふたりの疑似親子関係。
この絵本を通して、作者は何を伝えたかったのでしょうか。
誰しもやさしさを持っている
生まれたばかりのアンキロサウルスの赤ちゃんを食べようとした、ティラノサウルス。
最強のティラノサウルスには何も怖いものなどありません。
誰もが怖がって近づきませんし、自分もそれをよくわかっています。
しかし、父親と間違われ、怖かったと泣きつかれ、そのうえ「おとうさんみたいになりたい」と言われたことで、少しずつ変わっていくようすがわかります。
キランタイサウルスからウマソウをかばっている姿は、もうすでに本当の父親のようですね。
必要とされること、認めてもらうこと、弱いものを守ろうとする気持ちが、ティラノサウルスの優しさを育てているように思われます。
幼い子供の無償の愛
出会った次の日、ウマソウがいなくなっていることに気づいたティラノサウルスは、必死でウマソウを探します。
もしかして、キランタイサウルスに…と心配していたところに、赤い実を背中に乗せて帰ってきたウマソウ。
ティラノサウルスは怒って大きな声で叱りますが…。
ウマソウはティラノサウルスを喜ばせようと、遠くの山まで赤い実を取りに行っていたのだと告げます。
叱られてごめんなさいと泣いているウマソウに、「ありがとう、おいしいよ」と赤い実を食べて見せるティラノサウルス。
ウマソウは毎日赤い実をとりに行くようになります。
ふたりともがお互いを想いあい、喜ばせたい、役に立ちたいと願っているとても心温まる場面です。
幸せになるために
生きていくために必要なことを全て教えたティラノサウルスは、ウマソウに別れを告げました。
イヤだイヤだと泣いてうったえるウマソウ。
「ぼく、おとうさんみたいになりたいんだ。おとうさんと、ぜったいいっしょにいる!」
可愛いウマソウのこの言葉は、何よりもうれしく切なく響いたことでしょう。
そんなウマソウに、あそこの山まで競争しようと言います。
後ろを振り返らず必死に走るウマソウと、反対側に向かって歩いていくティラノサウルス。
自分と一緒には生きていけない。
自分のようになってはいけない。
そう、自分に言い聞かせていたのかもしれません。
自分を犠牲にしても我が子の幸せだけを願う、血はつながっていないけれど、本物の親子の絆ができていたのではないでしょうか。
【ネタバレあり】『おまえうまそうだな』の感想とレビュー
ウマソウの無垢でまっすぐな心にふれて、愛情と優しさが膨らんでいくティラノサウルス。
切なく、心温まるストーリーに感動したとたくさんの感想が寄せられています。
家族愛あふれる絵本
表紙のタイトルと絵柄から、恐竜の出てくるおもしろい絵本だろうと思っていたら…。
寝る前に読んでいると、8歳になる娘が声を上げて泣いた絵本。
せつなく、胸にぐっとくるお話です。
この決して長くない絵本の中に、子どもに対する愛情とか、自分を犠牲にしても他人のために何かしてあげたい、家族の愛のエッセンスがギュッと詰まっています。
血が繋がっていなくても、愛情って芽生えるんだなって感動しました。
ティラノサウルスが、幸せになることを願わずにはいられません。
感想ひとこと
最初は、大きくて強そうなティラノサウルスなのにちょっと天然がはいったギャップがおかしくて子どもと一緒にニコニコ読んでいました。
徐々にティラノサウルスの不器用な優しさとウマソウの純粋な愛に心をつかまれて…。
自分の気持ちをぐっと押し殺して、ウマソウのために身を引くティラノサウルスの事を想うと、胸が苦しくなりました。
ウマソウにとってはハッピーエンドなんだけど、切なくホロリとしてしまう。
ずっと手放すことなく大切に持ち続けたい絵本です。
お父さんにぜひ読んで欲しい!
親御さんによんでいただきたい、特に「おとうさん」に。
「うわー、すごい!ぼくもはやくおとうさんみたいになりたいなあ…。」
こんなこと我が子に言われたら、どんな苦労も吹っ飛ぶというもの。
ティラノサウルスの気持ちも行動も、親であればこそ深く理解でき、感じ入ります。
おとうさんたちの読み聞かせ入門編としても、とても良いと思います。
『おまえうまそうだな』は、こんな方におすすめ!
肉食のどうもうなティラノサウルスが愛を知り、優しさをおぼえて変わっていく様子をえがいたこの絵本。
離れたいわけがないのに、成長を見守りたいに決まっているのに、突き放したように別れを告げるティラノサウルスの優しさに胸をうたれます。
ぜひ親子で一緒に読んでいただきたい絵本。
作者の宮西達也さんは、ティラノサウルスが権力者やお金持ちの象徴、そしてその対極として何も持たないウマソウを登場させたとおっしゃっています。
本当に素敵だなって思われるのはどんな人だろう。
そんな風にお子様と考えてみるのもいいかもしれませんね。
コメント